◆発刊にあたって

 システム監査学会も2017 年で設立30 周年となりました。この30 年間に、周知のようにコンピュータや通信ネットワークなどの各種情報通信技術の機能の向上と低廉化が加速度的に進み、企業その他組織体の活動は言うまでもなく、個々人の日常的生活までも劇的に変容させつつ多種多様の便益を創出して、まさに「豊かな社会」が実現されようとしております。
 このことは、同時に、高性能の各種情報機器が情報ネットワークを介してますます複雑に絡み合い、もつれ合うことになり、多種多様のリスクの発生を生み出すことに至っています。したがって、情報システムの信頼性・安全性・正確性を担保しつつも、同時に有効性・効率性を実現しうるガバナンスを確立して「豊かであるとともに健全な社会」を実現することが重要な課題となってきました。
 このような現状を第3 次情報革命もしくは第4 次情報革命と称してビジネスや社会の劇的な変革が叫ばれているときに、当学会は、まさに30 周年を迎えました。システム監査は、このような社会の実現に寄与すべきことが役割期待であると改めて再認識をしたうえで、システム監査実践に関する研究と学会としての発展に向けて新たな一歩を踏み出すことになりました。
 ここにシステム監査研究に向けての今後のひとつの「マイルストーン」の役割をもって「30 周年記念論文集」を上梓させていただきました。
 本論文集では、とくに当学会初代会長である松田武彦先生(元東京工業大学学長)のEDP 監査人協会(現ISACA)での基調講演録「効果的な情報システムマネジメントを通した組織知能の向上(Enhancing Organizational Intelligence Through Effective Information Systems Management)」をISACAのご好意により原文とともに翻訳を再録させていただきました。
 この再録の意図するところは、当学会の研究領域であるシステム監査が、まさに監査がもつ伝統的な信頼性、安全性、正確性の担保という意義のみにとどまらず、むしろ先生の永年にわたるご研究の代表的成果のひとつとして集約され、システム工学、経営学領域などにおいて多大な影響を与えた「組織知能(Organizational Intelligence)」の向上の一翼を担うものとして位置づけられた点に注目したからです。
 これは、まさに現在、経営組織論および戦略論などにおいて重視されている「組織能力(Organizational Capability)」の向上とある意味で軌を一にするものと認識することが可能であると思います。また、今日、システム監査が情報システムの有効性・効率性のみならず、IT ガバナンスの向上への貢献も射程に置くに至ったことを考えるにつけて、すでに松田先生が30 年以上前にこの点を唱導されておられることは大いに刮目に値するところでありましょう。
 「原点に立ち返る」とも言えますが、松田先生が強調されたシステム監査の「組織知能の向上」への貢献という考え方は、今後のシステム監査研究においても揺るぎない道標、そして基盤になると確信して30周年記念論文集に再収録をさせていただきました。斯界の多くの方々にも再度の咀嚼をしていただき、今後のシステム監査に関する研究と実践の糧にしていただけたらと願っております。
 本論文集では、30 周年記念テーマ「システム監査の過去・現在・未来-システム監査の歴史・課題と将来展開-」のもとで投稿された実践者を中心とする論文および30 周年記念・学会賞、研究奨励賞授与の研究成果によって編纂されました。
 今後のシステム監査の研究と実践に貴重な示唆を与える点もあると確信しておりますが、もちろんご批判もあろうかと思います。これも今後の研究活動への大いなる糧になることはたしかであり、積極的に議論を交じり合わせてこそ学会活動のあるべき姿であり、次なるステージに立ち向かうことを可能にすると信しております。

システム監査学会 会長 遠山 曉
(本誌 - 「巻頭言」より抜粋)

◆書籍について

タイトル:システム監査 第31巻第1号
システム監査学会設立30周年記念 特別号
Journal of Systems Audits
発行:システム監査学会
定価:システム監査学会 会員 2,000円
一般 3,000円
仕様:A4 判 168 ページ
発⾏⽇:2018 年 2 ⽉ 28 ⽇
購⼊について:購入をご希望の方は、学会「問い合わせフォーム」からご注文ください。 http://www.sysaudit.gr.jp/toiawase/index.html

●別途送料がかかります。

◆目次

【巻頭言】システム監査学会 会長  遠山  曉

【Keynote】

Enhancing Organizational Intelligence Through Effective Information Systems Management From an Address Delivered at EDPA '88, The Asia Pacific Conference on Information Systems Audit
Takehiko Matsuda

【基調講演録: 翻訳】

効果的な情報システムマネジメントを通した組織知能の向上
EDPA ’88 情報システム監査に関するアジアパシフィック会議で発表された講演より
システム監査学会初代会長   故松田 武彦  先生
毛塚 恵太、金内 勇介  翻訳/松尾 明  監訳

【学会賞受賞論文】

地方自治体におけるICT 監査の更なる普及にむけて
片岡 学

【研究奨励賞】

・中小企業へのサイバー攻撃を防御するためのCSIRT 導入の考察
情報セキュリティ対策の診断研究プロジェクト  木村 裕一/赤尾 嘉治/櫻井 由美子
・システム監査と事業継続マネジメントシステム(BCMS)
  ~重大事故事例をレピュテーションリスクの観点から研究~
リスクマネジメント研究プロジェクト  足立 憲昭/森宮  康/黒澤 兵夫
・IT ガバナンス向上に向けたガイドラインの活用に関する提言
神橋 基博

【研究論文】

・地方公共団体向け保証型システム監査の適用アプローチ
小宮 弘信/松井 秀雄/金子 力造/田崎 竹雄/浦上 豊蔵/藤野 正純
・第4 次産業革命における情報化実践と監査
成田 和弘
・大規模な個人情報漏えい事故に対する事業継続計画の監査に関する一考察
鈴木 宏幸/原田 要之助
・改正個人情報保護法を意識した要件定義工程の進め方と組織点検及びシステム監査に関する研究
 -企業2社での実務への適用を通じて-
栗山 孝祐/原 善一郎
・マイナンバーカードのおもて面情報を個人情報管理で利用する場合のリスクに関する一考察
福永 栄一
・マイナンバー制度がもたらすリスクに対するシステム監査の有用性について
吉田 博一
・例外措置を活用した情報セキュリティポリシーの柔軟な運用に関する提案~中小企業に着目して~
村﨑 康博/原田 要之助
・ソフトウェア画面デザインの意匠権制度の開始に伴う新たなリスクとコントロールに関する一考察
荒牧 裕一

【研究ノート】

・現代の情報システム化実践とシステム監査の関わりについての一考察
松田 貴典

【編集後記】

学会誌「システム監査」目次一覧

これまで発行した学会誌の目次一覧を掲載しています。
https://www.sysaudit.gr.jp/gakkaishi/

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